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目の病気 目の病気の原因や症状、治療法などを解りやすく説明いたします。

加齢黄斑変性

高齢者の眼底中央部に加齢性の変化として発症し、物が歪んで見えたり、視野の真ん中が暗く見えたりする病気です。

抗VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor、血管内皮増殖因子)療法

VEGFの働きを抑える薬物を使って、加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管を鎮静化させる治療法です。

中心窩下に脈絡膜新生血管を有する加齢黄斑変性に対する二つの治療薬が、平成20年後半と平成21年初旬、厚生労働省からの使用許可を得ました。商品名は「マクジェン」と「ルセンティス」と言い、いずれも抗VEGF療法と呼ばれる治療薬で、目をきれいに消毒した後、硝子体(しょうしたい)内に注射します。硝子体内注射を定期的に、繰り返し行う治療法です。当院でも、両方の薬剤を使用できるようになりました。

VEGF(血管内皮増殖因子)は、胎児の時期に血管がないところに新たに血管が作られたり(脈管形成)、既にある血管から分枝伸長して血管を形成する(血管新生)ことに係るサイトカインと呼ばれる糖タンパクです。VEGFは血管内皮細胞の分裂や遊走、分化を刺激したり、微小血管の血管透過性を亢進させたりする働きをもつほか、単球やマクロファージといった炎症に係る細胞の活性化にも関与しています。したがって、正常な体の血管新生に係るとともに、腫瘍の血管形成や転移など、病気の過程にも係わっています。

加齢黄斑変性の病因・病態」の中で述べた「血管の発生を促す作用を有するサイトカイン」の代表がVEGFです。VEGFの働きを抑えることにより脈絡膜新生血管の活動性を低下させ、脈絡膜新生血管を退縮させることができます。

VEGFにはいくつかの種類があり、眼内に存在する主要なVEGFは、VEGF121とVEGF165です(121や165という数字は、VEGFを構成するアミノ酸の数です)。VEGF121もVEGF165も眼内でいろいろな働きをしていますが、VEGF165は病的な状態との係わりが強く、一方、VEGF121は正常な機能との係わりが強いことが知られています。本項の冒頭で紹介した「マクジェン」は、VEGF165のみと結合し、VEGF165の働きを選択的に阻害するように作られた薬です。一方、「ルセンティス」は、いずれのVEGFとも結合し、それらの働きを抑える効果を持っています。

図1

図1

欧米の多施設が参加し、加齢黄斑変性に伴う中心窩下のpredominantly classic型と呼ばれている脈絡膜新生血管に対して、光線力学的療法(PDT)を行ったビスダイン群と無治療のプラセボ群での経過を比較した研究結果です。
横軸は治療開始後の経過期間を示し、治療後2年間の経過観察が行われています。縦軸は、視力測定で用いられたETDRSチャート(図2)において、読み取り可能な文字数が治療開始時と比べ、いくつ増減したかを示しています。

図2 ETDRSチャート

図2

研究で用いられたETDRSチャートという視力表です。ベースラインでは大きな指標の10文字(オレンジ色で表示)を読み取ることができた症例が、治療後は21文字を読み取ることができるようになっており、治療により+11文字の視力改善が得られたことになります。

図3

図3

図3は図1と同様に、欧米の多施設が参加し、加齢黄斑変性に伴う中心窩下のpredominantly classic型脈絡膜新生血管に対して行われた、ルセンティスによる抗VEGF療法とPDT(図ではビスダイン療法)後の視力変化を比較した研究結果です。縦軸は図1と同様に、読み取り可能な文字数の増減を示しています。

図1から解ることは、欧米人の加齢黄斑変性に対する治療法として、PDTは無治療で放置するよりは良い視力を維持することが期待できますが、PDTを行っても治療開始時と比べ視力はやや低下するということです。(日本人に対するPDTの治療成績は、欧米人に対する治療成績よりは良好であることが知られています。当院での治療成績が示すように、PDTを行うことにより視力の維持、若干の向上が期待できます。)

一方、図3は、治療の対象者が欧米人であっても、ルセンティスの投与により視力が向上することを示しています。PDTの治療成績は図1とほぼ同様です。視力向上が期待できるという点で、ルセンティスは加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管への治療法として、従来の治療法と比べ画期的であると言えます。

マクジェンの治療成績は、PDTとほぼ同等であることが報告されています。マクジェンとルセンティスの治療効果の差は、それぞれの薬の特徴である、VEGF165のみを選択的に阻害するか、すべてのタイプのVEGFを阻害するかに起因すると考えられています。ルセンティスは、すべてのタイプのVEGFの働きを抑えることにより、大きな治療効果をもたらすのですが、目に必要な正常な状態でのVEGF作用も抑制します。先述の研究でもその後の使用成績で、この点に関する明らかな副作用は報告されていません。現在、脈絡膜新生血管の活動性が高い急性期にルセンティスを使用して病変を落ち着かせ、その後の再発・再燃を防ぐためにマクジェンを用いるという治療法の有効性を検討する研究が進行中です。

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